食文化の研究(その2)
中央区佃地区に住まいして10年を超える。
ここから離れるつもりはない。理由はいくつかある。
隅田川沿いで海にも近く、実家の風景に似ていることが最大の要因。
そして、日本最大の魚市場の築地市場に近いことも離れ難い要因となっている。
富山の寒村に生れた自分にとって、“朝からさしみ”といった、魚中心の食文化は
骨の髄まで染み込んでいる。
大概の魚は口にしている。
ただ東京に出てきて唯一、これだけはと思った魚がある。マグロである。
日本海側の実家方面で、マグロは採れるには採れるが、当然ながら高価で、
一般の食卓に上がることはまずない。
時として、と言っても月イチ程度だが、異常にマグロを食べたくなる。
そういう場合は、速攻で築地場外にある行き着けのすし屋に行く。
赤身・漬け・中トロを2カンづつ、この3点セットを3廻り程度(合計18カン)。
これに味噌汁がついて2,500円でおつりがくる。
これが通常の築地の値段。
日本でこれ以上の新鮮度と美味さを兼ね備えた寿司はないから、それで
(心理的にも)十分満腹である。
そのマグロに異変が起きている。
マグロの価格がジリジリ上昇している。
代表的な冷凍メバチマグロの築地での卸値は、年初で1㌔800円を下回っていた。
夏には1,000円程度に上昇。
その後若干値を戻したが、前年を上回る水準が続いている。
価格高騰の背景には世界的な需要増がある。
欧米ではBSE(牛海面状脳症)や鳥インフルエンザの流行に加え、
健康志向の高まりで、肉から魚への需要シフトが進んでいる。
世界の水産物貿易量は、1990年代半ばからの10年間で1.3倍の
約三千万㌧に膨らんでいる。
現状の価格高騰は一過性とは言い難い。
世界各国の資源保護の高まりがこれに拍車をかける。
日本はミナミマグロに関し、2007年から5年間の漁獲枠を従来の半分の
年間三千㌧に減らされた。
今月中には最高級のクロマグロなどの漁獲枠が決まるが、日本は不利との
見方がもっぱらである。
海外での魚介類買い付けは、常に日本が中心で、価格も日本主導で決まってきた。
しかし最近では、日本の水産会社や商社が買い負けるパターンが多くなっている。
大きな理由は円安・ユーロ高を背景とした欧州勢の攻勢。
過去5年でユーロは対円で35%も上昇、欧州の購買力は飛躍的に伸びた。
2005年の米産銀ザケの輸入量を見ると、日本は00年比で三割減ったが、
英国や独は8倍増。
もうひとつの理由は、食の安全や外観に対する日本独特のこだわり。
日本政府は今年から残留成分規制を強化した。
結果、日本の業者は他国が気にしない小さな傷にも注文をつける。
少子高齢化で市場が伸びず、バブル期のような購買力を持てなくなった日本。
一方、経済成長や健康志向で、魚を多く食べ始めた欧米や中国。
買い手としての日本の独占的地位は崩れた。
10年後には、トロなどの高級品は欧米や中国に行き、日本には二級品しか
来ない可能性がある。
たかがマグロ。されどマグロ。
かくして日本の代表的な食文化は、思いがけない海外からの攻勢にタジタジと
なっている。
