IT業界の大戦争

5月3日、
ソフトウエア最大手の米マイクロソフト(以下MS)は、米ヤフーの買収を断念すると発表した。
1月末に総額446億㌦(約4兆7千億円)の買収額を提示していたが、より好条件を求めるヤフーとの
交渉が決裂した。

IT業界のガリバーと言われてきたMSは、世界シェア9割超のパソコン用基本ソフト(OS)や
ワープロ表計算ソフトを武器に高収入を維持、株式時価総額は2,700億㌦(約28兆3500億円)と
世界のIT企業では群を抜いている。

しかしパソコンは先進国で需要が頭打ちで、MSの1-3月期決算でも、
パソコンOS部門は前年同月比減収だった。
独禁当局の監視の目が厳しさを増し、ドル箱のソフト事業のうまみが薄れる中で、
成長維持のためにはネット部門の強化が不可欠だった。

一方、米司法省がMSを独禁法違反で訴えた1998年に創業したグーグルは、
ネット広告での高収益を原資に、ソフト機能の無償提供を拡大してきた。
このまま放置した場合、ソフトの無料化が一段と進み、
MSがここ10年謳歌してきたIT業界の主導権は、グーグルが握るとの見方が大勢となる中での
今回の買収劇だった。

MSとグーグル。数字だけを見ればMSが依然優位に立っている。
株式時価総額はグーグルの1.5倍、売上高は3倍。
それでもMSがグーグルを怖れる理由は、「ネット広告」という時代の流れの頂点にグーグルが
君臨し始めているからである。

グーグルの手法は、ワープロなどの業務用ソフトをネットで無償提供し、携帯電話用のOSも
無料で公開しながら、外部企業が自由に使えるようにして自社技術を普及させる。
こうした一連の「無償方式」はネット広告の収入を増大させる。

ネット広告の世界市場は、2010年までに800億㌦(約84兆円)になると推定されている。
グーグルが現在の4割のシェアを維持すれば、収入は300億㌦(約31兆円)を超え、
現在のMSのOSと業務用ソフトの売上高の合計に並ぶ。

MSはここ数年、ソフト依存から脱却すべく、ネットやデジタル音楽に戦略を拡大してきた。
しかし新興企業との技術者争奪で、人材不足が深刻化している。

IT業界は、「クリック一つで利用者が離れる」栄枯盛衰の激しい世界には違いない。
そうしたバーチャルな空間の主導権を巡って、ここ3ヶ月、MSのヤフーの買収戦には、
メディア大手のタイムワーナーやニューズも参戦している。

アナログ感覚が抜けない日本では考えも及ばない、
ゲーム感覚の、膨大で漫画チックな金額が画面上で踊り狂っている。

総額で軽く10兆円を超える個人資産を得たとされるMS創業者のビル・ゲイツは、
こうした終りのない戦争に巻き込まれたくないと、早々に引退を表明した。

かくして、IT業界の大戦争は今からが本番である。
地球上の人類は、これからのバーチャルな世界で、果たしてどのように生きていくのか。
気が遠くなるような話ではある。