2008年11月30日

「三つのT」から「三つのS」への問題点

11月23日、
米政府は経営難に陥った米大手銀行シティグループに対して、金融安定化法に基づく公的資金を
使った大規模な救済策を発表した。
シティが抱える3060億㌦(約29兆円)の不良債権について、損失が発生した場合、そのの大半を
政府が埋め合わせることを保証。200億㌦(約1兆9千億円)の資本注入も追加で実施する。

米政府は10月に250億㌦の資本注入をしたばかり。
今回は追加で200億㌦を注入するほか、シティは不良債権の損失を埋め合わせてもらう見返りに
70億㌦の優先株を発行し、米政府が引き受ける。

シティへの資本注入の総額は実質的に520億㌦に達する。
米政府は世界規模の金融危機の引き金になりかねないシティグループに巨額の公的資金の投入を
含む救済を決め、経営を支える意思を鮮明にした。

次いで11月25日、(突然のタイミングで)、FRBは個人向けの信用収縮を和らげることを目的に、
住宅ローン関連で6千億㌦、消費者ローン関連で2千億㌦、総額で8000億㌦(約77兆円)に上る
新たな金融政策を発表した。

ガイトナー&サマーズというルービン・ファミリーが、
タイムリー(適切な時)、ターゲテッド(的を絞り)、テンポラリー(臨時に)の「三つのT」から、
スピーディ(速やかで)、サブスタンシャル(大規模な)、セブラル・イヤーズ(数年間)の「三つのS」に
キーワードを変え、積極財政に乗り出した。

こうした積極財政に対して市場の評価は概ね良好ではある。
ただ米政府は既に保険最大手にAIGを管理下に置き、シティ以外の主要金融機関にも公的資金を
投入済み。
結果的に米政府は、民間金融のリスクを丸抱えする状態に近づき、救済策が更に膨張するリスクを
抱えることになった。

シティに関しては、本体とは別に投資専門会社に約1兆2千億㌦(約115兆円)の簿外資産を保有
している。
追加の損失の恐れも燻ぶり、今回の救済策が果たして十分かどうか。
オバマ新政権には、重い課題が持ち越されたことになる。

1929年の大恐慌以来の規模という米国発の金融危機である。
経済だけでなく、時代認識にも影響を及ぼしているのは当時と同じである。
「金融依存の米国型資本主義の終焉」
「自由放任から政府主導の時代へ」との論調が飛び交う。

歴史的に大きな節目を迎えていると言わざるを得ない。
ルービン・ファミリーが経済政策を支えるとしても、米国経済が短時間では泥沼から抜き切れず、
混迷は避けられない状況にある。
今後も大規模な財政刺激策から金融機関や自動車メーカーへの支援まで、米政府の大規模な
市場介入政策が取られる公算が大きい。
ただそうした施策をもって米国の経済が短期間に復活するとは言い切れない。

米国の復活がなるか否か。
かくして我々は、“綱渡り”のような21世紀最大の転換期に対峙している。


2008年11月23日

基軸通貨の要件

まず基軸通貨の定義は何か。
「世界各国で共通の価値基準として認められる通貨」ということになる。

近代経済では、貿易の決済や金融取引などに幅広く使われるほか、各国政府の外貨準備ともなる。
通貨発行国の経済規模や政治・軍事力、通貨取引の規模で決まるとされている。

19世紀以降、英・ポンドが基軸通貨の役割を担ってきたが、
1945年に発効したブレトンウッズ協定で、米国が世界各国にドルと金との交換を約束したことから
米ドルが基軸通貨の地位を確立した。
1971年の金・ドル交換停止(ニクソン・ショック)後も、米国の経済力を背景にドルは基軸通貨の役割
を続けている。

1997年には欧州の通貨統合でユーロが誕生、国際取引でも存在感を増し、1999年に外貨準備の
7割を占めたドルは、現在は6割にまで低下している。
ただ今回の金融危機において基軸通貨としての機能は不十分だった。
それは欧州中央銀行(ECB)の中央銀行としての権限が平時のものとしてしか与えられていなかった
からである。

ECBは通貨の供給や金利政策などの機能を持つが、危機時の金融機関の監理監督権限、
すなわち金融機関の破たんの是非、預金の保護、銀行間の市場の保証、公的資本の注入などの
権限はあくまで各国の主権に属する。
このため、その調整と管理が極めて困難な状態にある。

しかし今回のユーロ暴落を機に、欧州各国がその欠点を改善してくるのは目に見えている。
「ドルはもはや唯一の基軸通貨と言い張ることはできない」
「20世紀の枠組みを21世紀も続けることはできない」。
11月13日、サルコジ仏大統領はパリのエリゼ宮殿で演説、ドルの将来に疑問を投げかけた。

イラク戦争の混迷などで政治的威信に傷つき、金融危機で揺らぎが見える米国は、
ドルの基軸通貨としての優位を前提に、巨額の資金不足(経常赤字)の穴埋めを海外からの
資本流入に頼り続けている。サルコジ発言にはドルへの強い不信感がある。

中国など新興国の台頭と共に、世界経済での米国の地位が低下する中で、
21世紀に確立したドル基軸体制への潜在的な不安は根強い。
米国発の金融危機でその不安は強まっているが、現状の世界に第二次大戦後に英ポンドから
基軸通貨の座を奪った時のドルのような勢いのある通貨は見当たらない。
例えばロシアなどは、自国通貨ルーブル圏の拡大を目指してはいるが、不可能というしかない。

新興国の代表中国は「ドルの安定は世界経済に重要な意味がある」(温家宝首相)としているが、
それはドル安定を前提に、輸出で高成長を維持する戦略に固持しているためである。
中国は日本と同様に、対米輸出で稼ぎ、多額のドル資産を抱え込んでいる。
「ドル本位」を巡る論争は、結局は自国利益を優先する「自己本位」論争でもある。

かくして、
「100年に一度の恐慌」の真っただ中、21世紀を支配する基軸通貨に関する論議が盛んである。
大きなポイントは「果たしてオババ・米新政権が世界経済を担えるか」という点になろう。
更に大きなリスクは、経済音痴・ブッシュが正式に退任する来年1月20日までに“何か”が起これば、
米政権が対応し切れないリスクがある。
すなわち世界経済が完全にクラッシュする可能性があるということである。

日本の麻生首相の(ブッシュ大統領並みの)頓珍漢な発言が続く中、あろうことか、日本の円は
世界最強通貨になっている。
いずれ劇的に修正されようが、現在はまるで(麻生首相の大好きな)アニメの世界である。

結論的には「ドル一極時代終了」「ユーロを中心に群雄割拠の時代に入る」ということに
なろうが、世界は「100年に一度の大恐慌にある」のは間違いないようである。

2008年11月16日

ブッシュ大統領の蹉跌

11月4日の米大統領選挙で、米国の新大統領が選ばれた。
と同時に、ここ8年のブッシュ大統領の業績に対する審判が下されることにもなった。
ではブッシュ政権はいかなる結果を残したのだろうか。

結論的に言えば、
ブッシュ大統領は第二次大戦後の「超大国・米国の時代を終わらせた大統領」として、
歴史に名を残すことになろう。

覇権国のリーダーとして振る舞ったイラク戦争では国際信任を損ない、米国の分裂を招いた。
サブプライム問題を起因とする米国発の金融危機は、1929年の大恐慌以来のグローバル危機に
波及した。
ブッシュ時代は「世界を混迷の時代に陥れた8年」と断定してもよさそうである。

巷間で言われるのは「ブッシュ=フーバー説」である。
1929年に始まる大恐慌期、均衡財政論者であるフーバー大統領の経済政策は、危機防止に
逆行するものであった。
株価急落を目前にしても「米国経済は健全だ」と繰り返すばかりで、危機を増幅した。

ブッシュ大統領も当初はフーバー流の表現を使っていた。
そして「フーバー流である」との批判が頻発する中で、ようやく方向転換を計る。
が、危機の根の深さを考えれば、余りに遅きに失した。
米証券大手リーマン・ブラザーズを破綻させ、公的資金の注入をためらい続けたことが危機を深めた。

現在の社会において「市場の失敗」には最終的に「政府の介入」しか手段がない。
にもかかわらず、共和党政権の基本である「自由放任」のスタンスが最後の最後まで邪魔をした。
「市場の失敗」に「政府の失敗」が重なり、グローバルな危機に引き金を引いた。

ブッシュ大統領の最大の不幸は、就任間もない2001年9月11日に始まったと言える。
米同時テロを受け、世界はテロとの戦いで結集した。
しかしブッシュ政権が踏み込んだイラク戦争は、テロとの戦いを逸脱した単独行動だった。
絶対権威の行使優先は、ソフトパワーの時代にはそぐわなかった。
残されたのは巨額の債務と米国の分裂であり、米国の国際信任が失われていった。

大恐慌後、米国の大統領は一貫して世界のリーダーだった。
ルーズベルト大統領は「我々が恐れるのはただひとつ、恐れることである」と米国民に
語りかけ、ニューディール政策で大恐慌からの脱却を図った。

(比較対象にはならないかもしれないが)
スキャンダルが頓着された1990年代のクリントン大統領でさえ、経済優先を掲げ
IT(金融技術)と金融を軸に米経済を再生し、財政赤字の解消に向けての努力をしてきた。

何気なく日本の森喜朗元首相のような経済オンチ風の雰囲気のあるブッシュ大統領が、
米大統領としての指導力を発揮できなかったのは「大統領の資質」ばかりではなかった。
根幹の大きな問題は「主役なき時代に主役を演じようとした」点にあったと思われる。


2008年11月08日

オバマ新大統領は大丈夫か

注目の米大統領選は10月4日、全米各州で投票、即日開票され、
ケニア出身の黒人の父と米カンザス州出身の白人の母を持つ民主党・バクラ・オバマ氏が圧勝。
大統領の座を射止めた。

米国史上初の黒人指導者となる同氏を大統領に押し上げたのは、米国内に充満する閉塞感だった。
イラク戦争で疲弊し、米国発の金融危機が世界に充満する中で、超大国の威信は完全に失墜した。
行き場のない不安と怒りを覚えた米国民は、国政経験が浅い40歳代の「黒人の変革の旗手」に
再生を託すことになった。

その意味では「オバマ大統領」を生みだした陰の主役は、8年間にわたるブッシュ政権だった。
就任後の最低の水準で低迷する支持率が象徴する有権者の嫌悪感と変化への渇望は、
奴隷制の過去を持つ米国に今なお残る微妙な人種問題を吹き飛ばしてしまった。

投票率も、ケネディ大統領が誕生した選挙に匹敵する60%を超え、
オバマ氏は既にリンカーン、ルーズベルト元大統領ら、米国の歴史に残る大統領並みの
成果の期待を背負っている。
「米国が変わる」の一枚看板で選挙を戦ってきたオバマ新大統領がまず直面するのは、
こうした途方もない期待への答えである。

「変化」を訴えた新大統領の背後にあるのは超大国・米国の地位の低下である。
「百年に一度の津波」と評されるグローバルな金融危機とドル基軸通貨体制の揺らぎ、
そして中国などの新興国の台頭、ロシア復活による米一極支配の後退。
多極化する激動の時代の対応を、米国民は政界の実績がない新人に託したことになる。

今回の大統領選挙の分岐点は、9月の米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻だった。
マケイン氏は「経済基盤は強力」と場違いな発言をして自爆した。
但し、オバマ氏が目を見張るような対策を提示したわけではなかった。

確かに選挙戦でのオバマ氏の演説は、聞いている者を魅了した。
日本でも「初の黒人候補」「福井県小浜市(おばまし)のオバマ」ということで、
予想以上に注目を浴びていた。ある種、無責任な勝手な応援の仕方ではあった。
表面的に美しい、耳障りの良い口調の演説だったが、果たして実戦的な中身が伴っていたかどうか。
ブッシュ政権の失政をあげつらっていれば喝采を浴びた選挙戦の延長をやれば、急速に失速するの
は目に見えている。
プレーヤーを批評する立場から、今後は実際にプレーしなければならないのである。

自身を国民融和の象徴と位置付けるオバマ氏は勝利宣言でも
「我々は単なる個人の集合ではなく、合衆国なのだ」と連帯を訴えた。
しかし利害の反する多くの人々を束ね損なうと八方美人に終わる可能性を含有している。

現代は英雄が一夜で失墜する「ネット時代」である。
早期に結果が出なければ期待は幻滅に変わる。
選挙戦で強調された40歳代という若さが逆作用する可能性も含有する。

超大国時代との落差に苦悩する米国が、次期政権下で更に内に閉じこもるのか、
新たな一歩を踏み出すのか。
全世界はオバマ氏の手腕を固唾を飲んで見守っている。

2008年11月03日

ユーロ異変

世界を駆け巡る投機マネーの猛烈な反転が、ついに急激な円高・株安となって日本市場を襲った。
10月24日の市場では、対ユーロで半日の間に14円余りも円高に振れた。
また、パニック的な売りが続いた日経平均も10月28日、7,000円を割り込んだ。
どちらも常軌を逸する急激な動きである。

ハンガリーやアルゼンチンなど、高金利でリスクも高い中堅・中小国に集まっていた投機資金が
一斉に逃避し出した。
世界の投機マネーは「消去法」として、低金利だが金融システムが“比較的”安定している
日本買い(=円買い)に猛然と走った。

麻生内閣が検討中の緊急対策は、株安の是正を中心に練られてはいるが、こうした地滑り的な
国際資金の動きには無頓着に見える。
その場しのぎで株安に対抗しても効果がないどころか、市場に足元を見透かされ、蹂躙される。
世界の投機マネーはスキを見せればたちどころになだれ込んでくる。

それにしても10月24日の為替市場はまさに修羅場だった。
円の1日の上げ幅は対ドルで7円、対ユーロで14円、対ポンドで20円。
これを称して“異常事態”と言わないで、何というのだろうか。

特にユーロ安の流れは異常だった。
「1ユーロ=1.3000㌦、1ユーロ=130円」という水準を超えると自動的にユーロ売りとなる注文が
大量に入っていたからだとされているが、当日のユーロは“値が飛んだ”状態になった。
ユーロが1ユーロ=169.97円という高値をつけた7月下旬から3か月で、113円前半まですっ飛んだ。
33%の急落である。

円はいつのまにか最強通貨になった。
米国発の金融危機が欧州や新興国に飛び火し、これまで高成長・高金利を目当てに流入していた
投機資金が一斉に流出、その資金が“比較的”安定している円に“(一時的に)避難した”のである。
複数の通貨に対する円の総合的な価値を示す実効為替レートは24日時点で113。
(日経通貨インデックス、2005年=100)
10月初からは15%の上昇で、8年振りの円高水準となっている。

急激な円高の背景には、昨年半ばまでの長期にわたる円安局面の反動という面もある。
低金利の円を借りて高金利通貨で運用する「円キャリー取引」が活発になって膨らんだ円安バブル
がはじけ、米金融危機を経て、大きな巻き戻しが起きている。

問題なのは「今後はどうするか」である。
市場のパニックが収まるには“日柄=時間の経過”が必要である。
まず「一方的に円が買われているという“異常現象”」を冷静に眺めることから始めねばなるまい。
市場全体が“逃げ”の状態になっている。が、果たして日本経済は本当に安泰なのか。

以降10年の正念場に差し掛かっている。
冷静に対処したい。

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