武田薬品7兆円買収の是非

北陸・富山を表現する代名詞のひとつに売薬がある。
正確には薬品配置販売業。
辺鄙な農漁村を中心に様々な薬品を小さな箱に詰めて置かせてもらい、
使った分だけ支払ってもらうという「先用後利」方式。
全国津々浦々、「富山の売薬」として重宝されていた。

コンビニ時代となり、従来の方式は廃れかけてはいるが、
自分が小中時代には売薬を生業にする家庭の子弟が
クラスに2~3人はいたように思う。
「薬がいつでも手元にある」という安心感は、
17世紀後半の第2代富山城主前田正甫公の「反魂丹」の伝統だった。

こうした日本の薬の世界が大きく様変わりしようとしている。
1781年(天明元年)創業の武田薬品の7兆円のメガ買収が発表された。
創業以来230年余の歴史のある同社は、
明治に入って洋薬の輸入も手掛けるが、その流れの一環にも見える。

日本の医薬品は以下の5社の寡占状態になり始めている。
日本の医薬品売上高で第1位が武田(世界16位)、
第2位がアステラス製薬(旧山之内製薬+旧藤沢薬品工業=同18位)、
第3位が第一三共(旧第一+旧三共=同20位)、
第4位が大塚ホールディングス(同21位)、第5位がエーザイ(同29位)。

今回買収するアイルランド・シャイアーは、
売上高の6割以上を米国で稼ぐ大手企業。
買収が実現すれば、武田の米国売上高比率を半分に引き上げ、
国内市場が1割台に下がり、8割以上を海外で稼ぐ、
売上高3兆円を超える国際的な製薬会社になる。
また当然のように“世界のベスト10”入りは確実となる。

だが横たわる問題は小さくない。
現在の年間売上1兆8千億円から3兆円に、
純利益も4500億円から6000億円程度に膨らむ。
ただ年間3000億円の元金返済(利息は100億円程度)が
続いていくことになる。
そして薬品業界には、医薬品の副作用問題などの訴訟がつきもの。
企業体が大きくなればなるほど、リスクは大きくなる。

今回のメガ買収は、証券会社の“仕掛け”が見え隠れする。
武田側は、日本の証券界のガリバー・野村証券。
シャイアー側がゴールドマンサックス、シティ、モルガンスタンレー。
世界的な大物の揃い踏みで、報酬総額は200億円超。

武田の現社長は9代目でフランス人のクリストフ・ウェバー氏。
年棒10億円。これは日産のカルロス・ゴーン氏と同額。
老舗の武田の社長がフランス人というのも何か馴染めないが、
日産がフランス人・カルロス・ゴーン現社長によって再生したのは
ご存じの通り。
ただ武田の日産の後追いが、果たして成功するのか。

医薬品、特に新薬に関しては門外漢であり興味もない。
武田の製品で知っているのは、アリナミン、感冒薬ベンザ、ハイシー程度。
至ってシンプルに考える。
後先を深く考えず、“美味しいところ”には目ざとく寄ってたかって暗躍する
証券業界は致し方ないにして、
医薬品を扱う企業が、利益だけを追求するあまり、無理矢理の規模の拡大を
することが正しいのか。
「先用後利」を掲げて慎ましやかに世の中に貢献してきた富山の売薬を思えば、
たとえそれが時代の流れとはいえ、違和感を感じざるを得ない。


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